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スウェーデンコラム「瑞筆」

第5回 スウェーデンのクリスマス/島田晶夫

11月も末に近づくにつれ、街は少しずつクリスマスモードへと変わってゆく。
僕の住んでいた学校の寮から一番近い街がカルマルだった。ストックホルムなどに比べるとずっと小さな街ではあったが、クリスマス時期ともなると街中の木々にイルミネーションが灯り、店のショーウィンドウにもサンタクロースやツリー、トナカイ、橋などの電飾が明るく輝いていた。街行く人も気持ちが高まるのか、プレゼントなどを買いに大勢の人が集まり、その顔が晴れやかだったことを記憶している。太陽が出ている時間がずっと少ないスウェーデンの長くて寒い冬。クリスマスはそんな冬のなかにあって、きらきらとした心温まる時間を過ごす大切なお祭りであるようだった。

ヨーロッパのあちこちでよく見られるクリスマスマーケットも、スウェーデンでは街の中心近くのカルマル城で毎年催されていて、小さな露店がびっしりと並んでいた。藁で作ったオーナメントやステッキの形のキャンディ(大きなものは1mくらいのものもある)、キャンドル、クリスマスカード、プレゼント用のセーターやアクセサリーを売っている店もあった。休日ともなるとたくさんの人がこのマーケットに訪れる。お目当てはクリスマス雑貨だけではなく、寒空の下で食べるソーセージやグレッグなどにもある。グレッグとはホットワインのことで、赤ワインにナツメグ、グローブ、オレンジピール、シナモンなどを入れて煮込み、それを漉したものにウォッカと砂糖を加えたものである。ドイツなど他の国でも良く飲まれているが、スウェーデンではレーズンとアーモンドをさらに加えて飲むのが一般的である。子供用にノンアルコールのグレッグもあり、焼き立てのソーセージをほおばりながら熱々のグレッグを飲んで暖をとると言うのは、この時期ならではの楽しみの一つである。
その土地、その家のグレッグの味があり、飲み比べも楽しいのだが、最近ではスーパーでパックになったグレッグセットがあり、赤ワインを用意すれば気軽に作れるようになっている。毎年友人がこのパックをクリスマスカード代わりに送ってくれるのだが、不思議にスウェーデンで飲んだ味にはどうしてもならない。やはりあのマーケット特有のわくわくするような雰囲気が必要なのかもしれない。

スウェーデンのクリスマスは言ってみれば日本のお正月と同じようなもので、家族が全員揃い、共に過ごす大切な日である。学校も会社も休みになり、遠くに暮らす家族もこの日ばかりは皆帰省して地元に戻る。家の中では11月の半ばからリース作りやキャンドル作りを始め、ショウガをたっぷり入れたジンジャークッキーを焼き、ツリーを飾り、暖炉の上には天使、サンタの人形、木で彫ったトムテ人形、降臨の人形など所狭しと並べる。
クリスマスイブの3週前にはすべての準備を整え終わり、星型を形取ったランプを家の軒に灯すと、あとはイブを待つだけになる。1週目は1本、2週目は2本というようにクリスマス当日に4本になるように毎晩キャンドルを灯すようになり、食後の夜のひとときをクリスマスに思いを馳せて過ごすのである。

さてしかし、学校も会社も何もかも休みになってしまうため、日本に帰らずにいる僕は寮に1人取り残されることになりかけた。校長先生までもが「どうする?」と聞きに来るほどで、困ったなと思っていると、友人が自分の実家に一緒に帰ろうと言ってくれた。きっと僕が想像する以上にクリスマスに一人でいるということはスウェーデンにあっては非常に寂しい思いをするものだったのだろう。とにかく友人に感謝しつつ彼の家で初めてのスウェーデン風クリスマスを体験したのだった。

友人の家に行き、いよいよクリスマスパーティは始まる、と言うのでダイニングへ向かってみると、テーブルの上はまさに食べ物が満載で、ご・ち・そ・う と一目でわかるものすごさである。メニューはミートボール、ハム、スィール(ニシンの酢漬け)、ゆでたジャガイモ、マッシュポテト、ミルク粥、パンにケーキにサラダ、フルーツ、そしてワインとスナップス(ウォッカに似た蒸留酒)、グレッグ。(すっかり名前を忘れてしまったのだが、干したタラを水で戻した料理もありこれが無性においしかった。)とにかくその量たるや、本当に尋常ではないのだ。
イブの夜から、クリスマス当日の夜まで食べて食べて食べ明かすのが彼の家のクリスマスだった。多分多くのスウェーデン家庭がそうなのだろうと思う。食べては休み、休んでは食べ、と考えてみたら最高の贅沢ではある。おかげで2日に3kgも太り、帰る頃にはズボンがきつかった。

イブの夜はもう一つ大切な行事がある。プレゼント交換である。
クリスマスツリーの下にみんなそれぞれのプレゼントを置いておき、食事が一段落すると一人がそれを一つずつ取り出しては、誰から誰へのプレゼントであるかを読み上げ、受け取った人はみんなの前でそのプレゼントを開けて見せるのである。親から子へ、子から親へ、兄弟同士、夫婦同士、と結構な時間をかけじっくり交換しあう、なかなか充実した時間である。大人も子供も中を開ける瞬間のドキドキは同じらしく、見ている人も飽きずに次は何だろうか、と楽しいのである。
僕は友人からスキーのビデオをもらい、彼のお母さんからは藁で作ったトナカイをもらった。他愛ないものかもしれないが素朴で心のこもった贈り物の暖かさに触れ、本当に嬉しかった。おこづかいを子供に与える家庭もあり、このあたりはまさにお年玉感覚のようである。

さて、家族とのんびり過ごした翌日からは、帰省して久しぶりに会う友人たちとのパーティが始まる。これがまたドンチャン騒ぎに近く、厳かというにはほど遠いが、食べて、飲んで、騒いで、と楽しいクリスマスには欠かせないものらしい。みんな本当に楽しそうで、この時ばかりは僕も日本の友達を思い出し、どうしているかなと懐かしく思ったものだった。

クリスマスが終わっても学校はまだ冬休みである。しかし正月はスウェーデンにあっては特別なものではないので、帰省していた友達もみんな学校に戻ってきていた。大晦日の晩はカウントダウンパーティが行われていたし、その後ニューイヤーパーティと称しては結構騒いでいる日が多かったように思う。

今年もまもなくスウェーデンからクリスマスカードが届くかもしれない。そろそろグレッグが恋しい季節である。赤ワインを用意して待っていようと思う。

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Columnist Profile
島田晶夫さん
1971年北海道苫小牧市生まれ。
1995年国立高岡短期大学産業工芸学科木材工芸専攻(富山県)卒業後、(財)スウェーデン交流センター(当別町)木材工芸工房の研修員として在籍。 1997年スウェーデン・カペラゴーデン手工芸学校 家具&インテリア科に留学、2000年スウェーデン・OLBY DESIGN(株)入社。 2001年帰国しDESIGN STUDIO SHIMADA設立とともに(財)スウェーデン交流センター木材工芸工房主任研修員として活躍中。
展覧会として、2002年第15北の生活産業デザインコンペティション入選・個展ギャラリーたぴお(札幌)、2003年グループ展(三越倉敷支店)、2004年2人展コンチネンタルギャラリー(札幌)、暮らしの中の木の椅子展入選。


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