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スウェーデンコラム「瑞筆」

第4回 スカンセンの「新しい庭」/深井せつ子さん

スウェーデンの首都・ストックホルムにある野外博物館のスカンセンは私の大好きな場所。 たくさんの島から成るこの首都の中で、ユールゴーデン島は 民族博物館やヴァーサ号博物館など博物館見学と散策が楽しめる、たいへん静かな島。都市部とは橋でつながっているので、車や市電、バスでわけなく入れるのですが、1日ゆっくり過ごして、帰路には遊園地の脇から出港する小型フェリーで都心部に帰るのも、また楽しい。

1891年に開園したスカンセンは、この島の丘全体に広がり、スウェーデン各地から移築された民家や農家の概観・内部が楽しめるだけでなく、森の動物ムースにも会うことができます。また、見晴らしの良い場所からはストックホルム全体の風景も眺めることもできるのです。

今回、訪ねた日は、あいにく九月半ばの雨の日でした。もう、子どもたちの元気な姿はありません。カフェもしまっているところが多く、夏の終わりを感じさせられました。わたしはストックホルムに住む知人とふたりで、ゆっくりと歩いていました。ところがシトシトと降っていた雨が、急に大降りに。私たちは、小道を走り抜け、近くの農家博物館に逃げ込みました。がっちりとした玄関をくぐって、震える体で木戸を開けると、中は温かく暖炉には火が。昔の農家のかまどに火をおこしていたのです。そのうえ、若く美しい民族衣装の女性が笑顔とあたたかいコーヒーを。私は一瞬タイムスリップしたのかとさえ思いましたが・・・・。

この女性は、農家博物館の案内人で、来訪者をあたたかく迎えいれてくれたのでした。何百年も前の農家の台所の窓際に座り、わたしたちは、しばらくぼーっと窓のそとをながめていました。

近くの林も木々のあいだに見える民家も、こうしていると、遠い田舎にいるような気持ちになってきます。とても、都心部から15分くらいにある博物館の中にいるとは思えません。

やっと雨があがり、わたしたちは、また歩きだしました。

しばらくゆくと、ちょっと見慣れないコーナーがありました。庭付きの一軒家の形をしていて、前庭には花壇や小さな野菜畑があり、その奥にやけに小さな家が。はて、これはどこかで見た光景に似ている。それに、いままでスカンセンで見たことがあったかしら?と、首をかしげていると知人が
「ほら、あれよ、例の。」と、私に促しました。例のとは、私がかつて感激のあまり自分の著書「森の贈り物」(大和書房1999年刊)にエッセーを寄せた「100年前からの花畑」のことです。それは、スウェーデンの都市部の集合住宅に住む人々のうち、郊外に別荘を持つ余力のない人のために約100年前に分譲販売された市民農園のこと。スウェーデンでは人間というのは働くだけでなく同時に自然を愛し、花や野菜を自ら育てることで本当の人間らしさが生まれる、という考え方があって、別荘を持てない当時の労働者階級のために廉価で市が庭を販売したというものです。この市民農園は、いまもさまざまな市民の手によって美しさを維持しつづけているのです。庭の中にある家は、傍まで行くと、おどろくほ小さく、普通の家の10分の1くらいの大きさ。コーヒータイムができるだけの休憩小屋なのです。「でも、どうして、このスカンセンに?」と、問う私に知人は教えてくれました。「このスカンセンはねえ、常に市民が集まって運営や方針などを考えている市民運動体なのよ。完成した民族博物館ではなくて、今でも、これからも市民と共に生きていくものなのよ」

それで、ストックホルム市民の誇りである、かつての市民農園が「スカンセン入り」を果たしたということなのだそうです。

日本は巨大なテーマパークが次々と閉園されているというのになんという差なのでしょう。 つまりはモノを作ることではなくて、人間がそれをどう考えていくか、ということが、大きな違いなのではないだろうか、という気がしました。

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Columnist Profile
深井せつ子さん
神奈川県出身。画家。
北欧各地の清涼な風景に強く惹かれ、北欧行を重ねている。個展や絵本をはじめとする著書も北欧をテーマとしたものが中心。近著に「デンマーク四季暦」(東京書籍)、「小さな姫の勇気の教え」(KKベストセラーズ)、「北欧ヒーリング紀行・森の贈り物」(大和出版)。スウェーデンハウス株式会社のカレンダーは、隔年で制作担当。日本北欧友の会会員、日本スウェーデン文学協会会員。


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