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スウェーデンコラム「瑞筆」

第5回 ガムラ・スタンの教会で/深井せつ子さん

スウェーデンの首都ストックホルムは、たくさんの島から成り立っている都市。主要な島と島には、たいてい、バス、電車、地下鉄さえが通じていたりするので、移動は、イタリアのヴェネッチアのように船のみ、ということは、まずありません。それでも、島は、それぞれ個性があって魅力的。

その中で、文句なしに魅力的な島が、ガムラ・スタン島。中世の町並みが、そのまま残るこの島は、壮大な三つの教会と王宮(現・王宮)もあり、観光の人気スポットでもあります。夏の間は、カフェやレストランのテーブルが石畳みにまではり出し、髪が金色に輝く若い人たちが太陽を浴びながら談笑し、観光客がひっきりなしに行き交う。夜ともなると、いつまでも暮れないほのかな光の白夜を楽しむ人々で、また違った賑わいをみせています。

私もこの島が、大好きで、その理由は、どこから見ても、なにしろ姿が良いこと。対岸のセーデルマルムという島からも、野外博物館のあるユールゴーデン島からも、船に乗って次第に遠ざかっていく時の姿も。いつ見ても、どこから見ても、華やかで、麗しい。

特に、対岸にある市庁舎の高い塔からの俯瞰は、まるで中世の絵画に出会ったよう。島のそこかしこに停泊する観光船やヨットの白い船体、取り囲む真っ青な海(正確には湖)、中世の赤い建物の群れ、色彩的にいっても、まさに圧巻のひとこと。

ある年、三月初旬の春浅い日にこの島を訪れる機会がありました。地下鉄の駅を降り、鼻歌まじりに地上に出ると、それは、私の知る、あの華やかな夏の光景からは想像もできない古都の厳しい姿がありました。

建物も、石畳みも、空気も、すべてが凍るように冷たい。外にまで出ていたテーブルは消え、どの店の戸もきっちりと閉まり、歩く人さえあまりいない。あいにく、雪まじりの風が強く、耳も鼻もすぐにちぎれそうに冷たくなっていきました。

最初は、歩いてはカフェで温まり、歩いてはどこかの店の中へ、と繰り返していたのですが、せっかく来たのだから、冬のこの島をしっかり歩こうと考えなおし、私は街と向き合うように歩きました。でも、決意とは裏腹に身体はすぐに冷たくなってしまう。

しばらくして、もう、どこでもいいから飛び込みたいというくらい冷え込んでしまった時、私は表通りから離れた巨大な教会の下にいました。入れるかどうかはわからないけれど、矢もたてもたまらず、庭をつっきって、教会に向かいます。重い木製のドアを開けると、もうひとつ木製のドアが。中に入って、広い礼拝堂内をぼーっと眺めていると、じんわりと暖かさが体を包んでくれるのがわかります。上の方から聖歌を歌う声とオルガンが響いていていました。キャンドルの火もあちこちで揺れています。

私は手袋をとって、冷たい手をこすり、胸で軽く十字を切ると、長い木製の祈りの席の一番後ろにそーっとすわっりました。前の方の席では、数人のご老人がお祈りをしていました。席についても、まだ何も考えられないくらい疲れ切っていた私は、あいかわらずぼーっと前方あたりを見つめたまま。気持ちが落ち着いてきたのは、ずいぶんたってからだったと思います。

そういえば、自分は、子供のころ、教会の日曜学校に毎週通っていたことがありました。賛美歌を歌い、クリスマス、復活祭と教会行事を楽しみにしていました。でも、温暖な海岸地帯の子供だった私には、教会が「暖かくてありがたい」などと思ったことは、一度だってなかったのです。ただ、壁画のマリア様や壁に飾られたイコン画がきれいできれいで、「いいなあ」と毎回じーと眺めていたのを覚えているくらいで。

そんな信者になれなかった私が、いま、こうして、震えて教会に飛び込み、寒さから助けていただいている。堅い木の椅子なのに、なぜか、そこはとても心地よく、冷え切ってこわばっていた私の体が、温かさと穏やかさの中でゆっくりと柔らかくほどけていくのが感じられます。氷のような島の中では、それは、もう、言葉にならないくらいありがたく、感謝という二文字で胸がいっぱいで、私は長い間席を立つことができませんでした。

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Columnist Profile
深井せつ子さん
神奈川県出身。画家。
北欧各地の清涼な風景に強く惹かれ、北欧行を重ねている。個展や絵本をはじめとする著書も北欧をテーマとしたものが中心。近著に「デンマーク四季暦」(東京書籍)、「小さな姫の勇気の教え」(KKベストセラーズ)、「北欧ヒーリング紀行・森の贈り物」(大和出版)。スウェーデンハウス株式会社のカレンダーは、隔年で制作担当。日本北欧友の会会員、日本スウェーデン文学協会会員。


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