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スウェーデンコラム「瑞筆」

第8回 ルドヴィカのホテル/深井せつ子さん

ロマンチック・ホテルとか、カントリー・インなどと呼ばれる宿泊先をご存じですか?

その名のとおりロマンチックなある種の条件を満たすホテルのグループといったら良いでしょうか。それぞれはまったく独立したホテルです。

イギリスあたりですと、元貴族の館であったり、別荘だったりするのでしょうか。スウェーデンでは、豪農の館(マナーハウス)だったり、元修道院だったり、古い民家を移築したものだったりします。

これまでに、一度だけ泊まったことがあるのは、運河沿いの元修道院。石づくりの堅牢な14・5世紀の建物で、内部も素晴らしいものでしたが、部屋の石の壁の冷たさにはちょっとつらいものがありました。

ところが、昨夏宿泊したホテルは、ほんとうにロマンチックな気持ちにさせてくれるホテルだったのです。場所は、中部ダーラナ地方、ファールン郊外のルドヴィカ。かつて、ファールン一帯は、銅、鉄などの採掘と製鉄でたいへん栄えた地域でした。その鉱山業や製鉄業の経営者は、19世紀の企業的規模になる以前は、このあたりの資産農家の人々だったということです。私が泊まったホテルは、多分、その資産農家の館なのでしょう。湖のそばにある広大な敷地で、母屋を中心とする住居のまわりの庭は、鹿や狐が棲むような深い森。

10人ほどのグループだった私たちは、夕食後フロントで手続きを済ますと、少し離れたところにある一軒家に案内されました。18世紀の頃の建物で、木造・瓦屋根の美しい館です。

頑丈な木製の戸をあけると、廊下の左右に客室が。でも、部屋番号のプレートは真新しいものの、廊下の板張りも、壁や天井も、ほとんどが昔のままのようです。

私の部屋は角部屋で、窓には昔風の真っ白な木綿のカーテンがさがり、古い装飾のある机と椅子、それに暖炉。もちろん、テレビのような無機質なものは一切ありません。バスルーム内部は最新設備ですが、扉を閉じれば、まるで博物館に居るようなのです。

私たちは、いったん各部屋に分かれましたが、すぐに自分の部屋を開け放ち、廊下でうろうろしはじめました。みんな自分以外の部屋の内部を見たくてしかたがなかったのです。互いにそれが分ると、行き来がはじまりました。

「暖炉の形が違う!」、「ランプがさがっている!」、「燭台がある!」「化粧台が素敵!」などと、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、まるで修学旅行の子供のようにおおはしゃぎです。 あんまり盛り上がってしまったので、一番大きな部屋の人のところに集まって、ワインを開けました。

その部屋の照明は天井からの小さなシャンデリアがふたつだけ。古い木の床と家具調度とそのふたつの光りは、image私たちを心優しい世界に案内してくれたようです。皆の表情がこのうえなく柔和になっていくのがわかります。

窓の外は黒い森とキラキラ輝く小さな星。湖畔の一軒家は、私たちの話声が一瞬止まると、何の音も聞こえてきません。風や葉の揺れる音以外は。

スウェーデンの森の中で、私は心から幸せな気持ちを味わっていました。

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Columnist Profile
深井せつ子さん
神奈川県出身。画家。
北欧各地の清涼な風景に強く惹かれ、北欧行を重ねている。個展や絵本をはじめとする著書も北欧をテーマとしたものが中心。近著に「デンマーク四季暦」(東京書籍)、「小さな姫の勇気の教え」(KKベストセラーズ)、「北欧ヒーリング紀行・森の贈り物」(大和出版)。スウェーデンハウス株式会社のカレンダーは、隔年で制作担当。日本北欧友の会会員、日本スウェーデン文学協会会員。


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