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スウェーデンコラム「瑞筆」

第8回 洗礼式/本田倫子さん

「僕の洗礼式に来てね!」
ある日、でっかい赤ちゃんの写真と共に招待状が届いた。 楽器の製作を習っているエスビョンの子供、トルビョンの洗礼式だ。

洗礼式?聞いたことはあるが良く知らない。さっそくエスビョン宅を訪ねた際に聞いてみた。
「洗礼式は本当はキリスト教に入信する儀式だけど、この辺りの村ではただの伝統というか習慣のようなもの。自分自身、キリスト教徒ではないんだけどね。子供が1歳前後になると、こうして赤ちゃんのお披露目と正式な名前を発表する集まりみたいなものをするんだよ。」と言う。日本のお宮参りも宗教心より伝統や習慣という感覚に近いから似たようなものなのかな?(敬虔な信者には失礼な言い方かもしれないが)
ちなみに、スウェーデン人は名前が大抵二つ以上あるそうだ(ミドルネームではない)。メインでどの名前を使用するかは後々本人が決めることができるらしい。なんとも合理的。

さて、そんな洗礼式、なかなか呼ばれる機会もないだろうし、とても楽しみだ。 でも、一つ困ったことに気づいた。日本でも冠婚葬祭にはマナーがある。洗礼式のマナーって何?教会に行って私はまず何するの?服装は?「?」がいっぱいになった私はクラスメートに聞いてみた。
「さあ?してもらったことはあるけど行ったことはないから。第一、僕、信者じゃないんだよね。うちの学校でキリスト教徒といえばレーナ(仮名)がいるよ。聞いてみたら?」 ひとまず、隣にいたアメリカ人クラスメートにも聞いてみた。彼は仕事を定年退職して留学しに来ているので人生経験豊富そう。知っているに違いない。しかし尋ねてみると「うーん。信者じゃないから行ったことないね。周りに熱心な信者もいないしね。」
え!そうなの!?なんとなく私の頭には欧米人はキリスト教文化に詳しいようなイメージがあって、こうしたリアクションに驚いてしまった。 ともかく聞き込みリサーチをしていくうちに大体の流れが分かった。
―まず教会に着いて、「こんにちは」とか何とか挨拶をして席に座るだけ。その後、必ずフィーカ(ティータイム)が用意されていて、部屋の一角にプレゼントを置くテーブルがあるのでそこに持参したプレゼントを置く。服装はきれいなワンピースなどが良い。留学生と言うことで目をつぶってくれるだろうがジーンズはやめたほうがいい。
なるほど。早速プレゼントを買いに行った。服は、濃いブルーの襟付きワンピースがあったので、それとボトムスに黒いパンツをはくことにした。靴は…シューズしかない。黒の革靴があるけどダンスシューズなので見たらすぐにバレてしまう。仕方ない。自転車で行くしシューズにしよう。

出発の日、寮を出る前にクラスメートに全身チェックしてもらった。
「どう?大丈夫と思う?」
「うん。バッチリ!」
全身チェック済みとはいえ、その日の最高気温は10度だ(4月末)。上からフリースパーカー、耳あて、マフラーと完全防備し、よし!と自転車にまたがった。初めてのセレモニー出席でちょっとドキドキする。
教会はここから4kmほど行った野原にある。1400年代に建てられた石造りの教会だ。
この村の人は、結婚式、葬式、洗礼式、と色々な行事でこの教会を利用する。

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洗礼式では赤ちゃんは白いドレスを着ると聞いていたが、両親の希望で手作りの民族衣装を着ている。ニッケルハルパの演奏もあり、アットホームな式だった。

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式が終わると隣の公民館でお茶を用意しているのでどうぞ、と言われた。ふむふむ、事前調査通りだ。部屋に入ると、なるほど、あれがプレゼント用テーブル。大小色んな包みが既に置いてあった。お父さん(エスビョン)から息子へのプレゼントはニッケルハルパだ。子供用でとっても小さい。大人用は板を貼ったりネジで留めたりする組み立て楽器だが、このプレゼントは昔の伝統通り一本の木から削りだして作っていた。将来、有名プレーヤーになるかな?
フィーカにはサンドイッチ、クッキー、ケーキなど軽食が沢山用意されていて、この日集まった30名ほどの人々でにぎやかなひと時を過ごした。

洗礼式の間中、赤ちゃんは全く泣かなかった。機嫌がとっても良い。エスビョンの家に行くたびに思うのだが、この子は人見知りをしないのだ。「ちょっと抱いて」と渡されても私の腕の中でニコニコしている。上の2歳の男の子も同じく初対面から私に親しく接してくる。知人で、研究でスウェーデンと日本の赤ちゃんにたくさん接している人がいるが、彼女も「日本人の赤ちゃんはお母さんがいなくなると泣き出す場合が多いけど、スウェーデン人の赤ちゃんは泣いたりせず独り遊びを始める子が多い」と言っていた。確かに人懐っこい子が多い気がする。日本と同じ核家族型社会とは言っても、外部との接触の仕方が違うのかもしれない。

・・・それから1年後・・・
トルビョンに再会すると、赤ちゃんらしさは抜け金髪の巻き毛を揺らして走り回っていた。きっと私のことは覚えてないと思うけど私の周りを飛び跳ねていた。
もっと大きくなって再会しても、またあの笑顔を見せてくれますように!

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Columnist Profile
本田倫子さん
福岡県出身、奈良県在住。ニッケルハルパ奏者。
スウェーデン各地の伝承音楽を多くの著名プレーヤーから学ぶ。 2006年、国立民族音楽センターでもあるEric Sahlström Institutet、ニッケルハルパ演奏課に留学。また、エスビョン・ホグマルク氏より楽器の伝統等について学ぶ。 Zornmärketにて、2007年、2008年参加。それぞれディプロム賞、銅メダルを獲得。 ソロやスウェーデンとノルウェイの音楽を演奏するデュオ、“fiss”にて活動。


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