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スウェーデンコラム「瑞筆」

第12回 伝統音楽を通してみたスウェーデン/本田倫子さん

夜、飛行機がアーランダ空港に到着すると、小さな赤い電車に乗り込む。ウップランド地方を走るローカル電車、ウプトーゲット(Upptåget)だ。この赤い電車は、日本での現実世界と、音楽だけのスウェーデンでのシンプルな田舎暮らし、という異空間をつなぐ。この電車に揺られ、日本の携帯とスウェーデンの携帯をそれぞれ手に「着いたよ」とメールのやりとりをしていると、どっちが現実?と夢の中にいるような気持ちになる。到着して友人とフィーカ(ティータイム)をしても、日本にいた時の空気が自分にまとわりついて、不思議な感覚をぬぐうのに一晩かかる。

ところで、私が度々スウェーデンに行くという話を日本ですると、スウェーデン人ってどう?とよく尋ねられる。しかし、実を言うと、私は一般的なスウェーデンというものを知らない。

よくスウェーデン人はシャイで、時間に正確、質素な生活を好み合理的と聞く。確かに時間には正確だ。少なくとも私が知っているスウェーデン人は、決められた時間の10分前にはスタンバイしようとする。質素で合理的といえば、ウプサラにある古い建物を思い出す。壁に本物そっくりの窓の絵が描かれているのだ。窓を作るのはお金がかかる、でも見た目に窓が欲しい・・・、じゃあ描いちゃえ!ということらしい。シャイかどうかについては全く分からない。伝統音楽では、膝と膝を突合せアイコンタクトを取りながら一緒に曲を弾く。すると、弾き終わった頃にはすっかり打ち解けてしまうのだ。例えば、会話せずとも野球をして一緒にくやしがり、共に喜べば、気持ちが先に通じ合う、そんな感じじゃないかと思う。ある時、白いヒゲが胸まであるお爺さんと夜中2時頃まで一緒に弾いたことがあった。ひき終わると「お腹すいたねー!」と初めて言葉をかけ、昔からの友人のように明け方まで話しこんだこともあった。違う場面で出会っていれば、会話はぎこちなかったかもしれない。

日本で私のスウェーデンでの体験談をすると、スウェーデン人はみな寝袋と楽器持参で森に出かけるものだと誤解されてしまいびっくりすることがある。伝統音楽のイベントは、たいてい森や草原の中といった交通手段もない田舎で開催される。寝袋持参は常識と言っても良いほどだ。そうはいっても、皆が趣味で音楽を演奏する訳では無いし、中でも伝統音楽をやっているとなるとごくごく少数。果たして一般的なスウェーデン人とはどういうものなのか?興味がありつつ未だ私にはナゾなのだ。

ある日、機会があってスウェーデンの高校の敷地に足を踏み入れたときのこと。なんだか雰囲気が違う。なんだろう、この違和感。一緒に行った友人に聞いてみた。「なんか雰囲気違うよね?」「ええ、私たちの学校とは随分違うでしょ。みんな顔にカラフルなペイントしているしね。」友人は化粧という英語が分からなくてちょっとオカシナ言い回しで私に教えてくれた。確かに。皆おしゃれで現代的な感じ。私がいた学校では、誰がよりフォーキッシュな格好かがよく話題になる。「フォーキッシュ」とはフォークミュージック風、つまり伝統音楽にはまっている風という意味で友人が勝手に造った言葉だ。私たちの中では、自分のルーツとなる伝統的なデザインを取り入れた格好がよりイケテるとされていた。それが手作りだとさらに株はあがる。私にとって、フォーキッシュなスウェーデン人は、伝統を大事にし、自然を愛し、人とのつながりを大切にする、ハートが暖かい人たちだ。

だが、友人が面白いことを言い始めた。「大体、伝統音楽を演奏するって他の友達に言いたくないんだよね。『森には妖精がいるって信じている』『ムダ毛も処理しないナチュラル派』『お花畑で踊っている』とか勝手なイメージばっかり持たれるんだもん!」と熱く語りはじめた。確かに、口伝による伝承音楽というものは、曲に不思議な話も一緒にくっついていることがある。ネッケン(水の精で、人を音楽で操り湖に沈めたりする恐ろしい妖精)なんて、しょっちゅう登場する。「この曲はネッケンに魂を売った人が弾いていた」とか「トロール(妖精)の調弦法」など不思議な話には事欠かない。外国人である私は土着の文化で面白いなぁと興味をひくけど、当の国では「ダサい」と思われることがあるなんて!それはそれで生の声を聞いた感じがして面白い。

そんなマニアックな伝統音楽の世界にどっぷり浸った生活を終え日本に帰国する日、私は空港に向かう赤い電車の中で泣いた。毎週自宅で楽器のことを教えてくれたエスビョンが駅まで見送ってくれた。ポケットをごそごそとしマッチを出した。マッチは飛行機であぶないから・・・と言うと、マッチの中身を取り「ケースならどう?」と言う。記念に何か渡したいんだと、ポケットをまた探り夏至祭のバッジを見つけ真っ赤な目をして私にくれた。最後に「家族の一員になってくれてありがとう」と言うと泣いた。私はなんて返したのかも覚えていない。泣きながら電車に乗り込んだ。電車の中では切符をチェックしに車掌がやってくるのだが、そっとしておいてくれた。1時間泣きっぱなしで空港に着き、もう涙も枯れただろうと思ったが、カネルブッレを売店で買ってかぶりつくとまた泣けてきた。自分でもなんでこんなに涙がでるのか分からない。悲しい訳ではないのだ。ただただ、スウェーデンでの充実した日々を想い、そして日本から来たというだけで親切にしてくれた人々への感謝で胸がいっぱいになのだ。私が留学を迷っていた時、「人生が豊かになる。嫌になったら帰ってくればいい。」と姉が背中を押してくれた。人生は豊かになったのか。その答えはまだ出ていない。答えを出す必要もないと思っている。 また、あの赤い電車に乗ろう。皆に会いに行こう。
それだけだ。

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Columnist Profile
本田倫子さん
福岡県出身、奈良県在住。ニッケルハルパ奏者。
スウェーデン各地の伝承音楽を多くの著名プレーヤーから学ぶ。 2006年、国立民族音楽センターでもあるEric Sahlström Institutet、ニッケルハルパ演奏課に留学。また、エスビョン・ホグマルク氏より楽器の伝統等について学ぶ。 Zornmärketにて、2007年、2008年参加。それぞれディプロム賞、銅メダルを獲得。 ソロやスウェーデンとノルウェイの音楽を演奏するデュオ、“fiss”にて活動。


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