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スウェーデンコラム「瑞筆」

第2回 おさがり/遠藤能範さん

 ぼくの人生で最初の十数年はおさがりに彩られていた。二人の兄は年子で、ぼくだけ少し離れていたから、二人分のおさがりを一身に集めたのだった。
 小学校の入学式にもぼくは兄から譲り受けたランドセルを背負って行った。それでもぼくは、むしろ嬉々としていた。そのランドセルのたたずまいが好きで、それを所有することを誇りに感じていたのだ。つぶれ具合は程よくこなれていて、ぼくの優越感を象徴してくれていた。ぼくの目には、大多数の新品のランドセルが上手くないレプリカのように映っていたのだった。


 またあった、「LOPPIS→」という立て看板。ぼくは半ば条件反射のように車を減速させて矢印に従って国道を折れると、順次現れる小さな立て看板を追っていく。林間の涼しげな砂利道を、あるいは畑に寄り添う農道を、はたまた住宅地を縫う街路を進み入ると、それは忽然と出現する。それは古い木造の納屋だったり使われていない牛舎だったり庭に設置されたテントだったりするのだけど、いずれにしても中はガラクタと宝物で満たされている。
 Loppis(ロッピス)というのは簡単に言うと古物屋である。家具、食器、台所用品、テキスタイル、玩具、工具、店によっては家電や古書や古着など挙げればキリがないが、とにかく暮らしを支え、彩るものを一手に引き受け、安価で提供してくれる。ちなみに語源のloppaは「蚤」のことである。
 車で旅行をしていると旅の楽しみの半分は、こうして思いがけず出くわすロッピスを巡ることとなる。夏は旅行者を当て込んで兼業ロッピスが急増殖するのだ。

 もちろん近所にもロッピスはある。土曜日の朝9:50、開店を待つ人だかりに身を紛らせるのが我が家のしきたり。先頭を陣取っているのは大概プロのおじさんたちだ。いや、確認したことはないのだけど、比較的高値がつきそうなものだけを手中に収めてすばやく引き上げてしまうところを見ると、そうに違いない。
 扉が開くと群集は一気に飲み込まれていく。入ってすぐ右手にある玩具コーナーに子供たちを置き去りにし、妻は食器やテキスタイル、夫は家具や道具のもとへ身を走らせる。
 このロッピスのように都市部の比較的規模の大きいところは、慈善団体が経営している場合が多い。人々はものを寄付し、お店はそれを安価で販売し、売り上げの一部を貧しい国々への援助金とする。普段自転車操業のような家計の中から現金を寄付する気にはなかなかなれなくても、使わなくなったものを寄付し、新たに必要になったものを購入することが間接的な協力となるのだ。このようなロッピスでは一部の社員を除いて多くをボランティアの力に頼っているらしい。年配の方が多いところを見ると定年退職後の身をこの活動に捧げているのだろう。ちなみに赤十字も各地でロッピスを展開している。

 言い訳をしておくと、ぼくらだって本当は、ガラクタの海を漁るよりは逸品ぞろいのアンティークショップですでに専門家の目を透過したものを買い求めることを恒例の行事としてみたい。しかし、負け惜しみで言うわけではないが、ガラクタのカオスから宝物を救い出す作業こそがロッピスの醍醐味なのだ。宝物はアンティークショップの主人が真っ先にかっさらっていくようなミッドセンチュリーの名品かもしれないし、100年位前ののどかな工業製品かもしれないし、垢と威厳に身を固めた古民具かもしれない。いや、たとえそんな仰々しいものでなくても、日々の暮らしの中でささやかな喜びをじんわりと感じさせてくれるような、そんなちょっとだけ良いもの、それを安く買わせていただく。
 こうして我が家の生活はロッピス品で少しずつ組み立てられていく。

 ロッピスを通してその土地の生活文化史の一端をつまみ食いできるのもまたおいしい。近代工業デザインの変遷へ興味をいざなわれるのも気分を豊かにしてくれるし、素材や工法に目を凝らしてみることにも心が躍らされる。
 そしてもうひとつの密かな楽しみは、もの一つ一つの歴史に空想を遊ばせること。槌目や削り跡につくり手の物語を広げるのもいいし、磨耗や光沢に使い手の物語を重ねるのもいい。
 ものは物語をその身に蓄積してより美しくなる。

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Columnist Profile
遠藤能範さん
茨城県出身。木工家具職人。
国立高岡短期大学産業造形学科木材工芸専攻及び同大学専攻科産業造形専攻において木材工芸の基礎を学び、特に家具指物(※1)に興味を持つ。1999年に渡端し、造形学校Capellagården(カペラゴーデン)家具指物科にて同分野の技能を深める。三年間の学業の修了とともにスウェーデンマイスター制度におけるgesäll(職人)資格を取得。
卒業後、家具工房WORKS.に勤務し、家具指物マイスターPeter Hellqvist氏に師事。この間半年程パイプオルガン工房Akerman & Lund orgelbyggeri ABに出向する。また、その後は家具製作会社AB Karl Andersson & Sonerに勤務、伝統ある良質量産家具の生産現場で家具職人としての修行を重ね、2006年末に帰国。現在家具工房設立の可能性を模索中。
参加展覧会として、ストックホルム国際家具見本市内カペラゴーデン展覧会の他、「Carl Malmsten med efterföljare」(カール・マルムステンと後継者達展)がある。

※1 木質部材に接合するための仕掛けを施し、組み立ててできた物品。またはその技法。


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