Column 島田 晶夫さん
僕はスーパーが好きである。いろいろなものが並んでいるところで、一つ一つ選んで買い物をするというのは、なかなか楽しい作業だと思う。生活と切っても切れない関係にある分、違う国の文化を知るうえでは一番身近で、おもしろい場所だと僕は考えている。
スウェーデンのスーパーも基本的には日本のスーパーと同じである。食料品があり、薬があり、服があり、日用雑貨があり・・・。けれど似て非なるところもたくさんある。
まずスーパーに着くと、カゴやカートを取り、電動式のゲートを抜けて食料品売り場に向かう。カートはお金を入れてから使うデポジット式で、当時は10クローナ硬貨(今なら1ユーロくらい)を差し込むと使えるようになり、使用後は決められた場所に戻すとお金が返ってくる仕組みになっている。
野菜やハム、チーズといったものはすべて量り売りが基本で、価格もkgあたりの単価が表示されている(円/kgのようなイメージ)。野菜や果物は、欲しい分だけカゴやカートに入れ、レジで清算するときにベルトコンベアー式の秤で値段をつけてもらうシステムである。ハムやチーズはガラスケースのある専用のコーナーがあり、何種類ものハムやチーズの塊から、「これを200g」「あれを500g」と店員さんに言うと、その場で量ってスライスしたものを紙に包んでくれる。あとはレジでまた値段をつけてもらうのである。
初めのうちは慣れるまでぎこちなく買い物をしていたが、これが慣れてくると、必要な分だけ買うことができるので、大変合理的なことに気がついた。
この方法だと、りんごもバナナも1個とか1本で買えるし(バナナなどほしい分だけ房からむしり取ってOKなのである)、ハムもチーズも新鮮なものをいつでも用意することができるからだ。また実際に目と手で物の良し悪しを確認できるので納得して買うことができる。
しかし逆を言うと、自分で選んで買ったものなので、例えば、帰ってから傷んでいたことに気が付いても、それは自分の責任ということになり文句も言えないということだ。一度アボガドを3、4個適当にパッと買って帰ったら、全部腐りかけの不良品だったことがあった。たかがアボガドなのだが、自分のミスにやり場のない、切ない気持ちになり、その後はどんな小さな買い物でも必ずじっくり見る癖が付いてしまった。
当たり前かもしれないが、ほとんどのスーパーでは生の魚は売っていない。魚介類といえば、冷凍のシーフードミックス(イカ、ホタテ、ムール貝など)か、缶詰、もしくは燻製である。缶詰は種類が割と豊富で、イワシのトマト味のものなどは良く食べていた。ご飯にもあう味で、魚が恋しくなると、ご飯とこの缶詰のコンビを楽しんでいた。
また、スウェーデンでは牛肉、豚肉は生のまま売っているが、鶏肉は冷凍したものしか売っていない。これは以前に鶏肉が原因で食中毒を起こしたらしく、それ以降鶏肉に関しては厳しく規制されているからだ。
さすがエコロジーの国なので、肉類の入っている容器は紙製である。卵も紙のパッケージに入っていたが、これも量り売り対象品で、みんな欲しい分だけパッケージごと破っては2個とか4個という具合に買っていく。始めて見たときには、ビリビリになった卵ケースが棚にいくつも並べられ、「ひどいもんだなー」と驚いたが、慣れてくるとこれも非常に合理的で、一人暮らしの身にはもってこいであった。
ところで、スウェーデンではアルコール類の販売が厳しく規制されている。スーパーやキオスクで売ることができるのは、クラス1、クラス2と呼ばれるローアルコールビールくらいで、クラス1は大体アルコール分が1%未満、クラス2で3.5%くらいだろう。日本でいうビール(アルコール分4.5%以上)はクラス3と呼ばれ、このクラス3とこれより強いお酒(ワイン、リキュール、ウォッカなど)は全て国営の酒店、システムボラーゲットで買わなくてはならない。
このシステムボラーゲットでは、身分証明書を見せる必要がある。これは年齢を制限するためのもの(20歳以上から飲酒が認められている)だと思うのだが、当然観光客もパスポートを見せなくてはならない。ここではガラスのショーケースに酒の見本が展示してあり、カウンター越しに店員に「あれとこれを何本づつ」と頼んで売ってもらう仕組みになっている。
さすがに国営、ちょっと厳しいように感じるが、これも慣れてしまえばどうということはない。みんな嬉しそうに両手に抱えるくらい買い込んでいた。
さて、日本のスーパーと違いがあるとすればそれは休業日かもしれない。
スウェーデンではスーパーに限らずほとんどの店が日曜日は確実に休日で閉まっている。土曜日の午前中だけで営業を終了する店もある。これは、日曜日がキリスト教の休息日となっているため、よほどの観光地でなければみんな休んでしまうわけである。
では、忙しくて買い物にいけないまま、土曜日の夜になってしまったらどうするのか? 心配無用である。ガソリンスタンドは日曜日も営業していて、必ずキオスクを併設しているからだ。
キオスクと言っても日本の駅にあるようなものではなく、規模を小さくしたコンビニエンスストアのようなもので、種類こそ少ないけれど何でも売っている。パン、チーズ、ビール。野菜、果物、ジュース、お菓子、歯ブラシなどの日用品。大抵のものはここで手に入れることができ、しかもレンタルビデオ屋も兼ねている店が多いので、ガソリンを入れ、ビデオを借り、簡単な食材と飲み物、グーディスを買えばもう週末はしっかり乗り切れる、という訳である。
最後にスーパーにはもう一つ、大切な役目がある。リサイクルである。
基本的に全てのスーパーでビン、缶、ペット樹脂製品のリサイクル収集を行っており、スーパーに持っていくとその量に応じて換金チケットをくれる仕組みになっている。
例えば、ビール500mlの缶1つが大体6.5円、2Lのペットボトルなら52円くらいになるので、ばかにならない。ただスウェーデンでは、最初にこういったものを販売するときに、このリサイクル料金を含めた価格にしているので、きっちり返して返金してもらわないと、自分が損するようになっている。
おかげで、子供や職のない老人などが捨てられた缶やビンを拾い集めてはスーパーに持っていくので、街中どこに行ってもこの種のゴミは落ちていない。一石二鳥なのだ。
このリサイクルで気をつけなくてはならないことは、きれいに洗って「そのまま」の形で返すことだ。缶などはつぶしてしまうと換金してくれない。酔っ払っても缶はつぶすな、である。
このリサイクル換金チケットを寮の仲間と地道に1年くらい貯め、これを使ってコーヒーメーカーやトースターなどを買ったことがある。はっきり言ってものすごく得した気分であった。
こういうリサイクルシステムがあると、今の日本もポイ捨て問題がなくなるような気がするのだが、どうなのだろうか。
ちょっとヨコシマな考えかもしれないが・・・。
1971年北海道苫小牧市生まれ。
1995年国立高岡短期大学産業工芸学科木材工芸専攻(富山県)卒業後、(財)スウェーデン交流センター(当別町)木材工芸工房の研修員として在籍。 1997年スウェーデン・カペラゴーデン手工芸学校 家具&インテリア科に留学、2000年スウェーデン・OLBY DESIGN(株)入社。 2001年帰国しDESIGN STUDIO SHIMADA設立とともに(財)スウェーデン交流センター木材工芸工房主任研修員として活躍中。
展覧会として、2002年第15北の生活産業デザインコンペティション入選・個展ギャラリーたぴお(札幌)、2003年グループ展(三越倉敷支店)、2004年2人展コンチネンタルギャラリー(札幌)、暮らしの中の木の椅子展入選。