スウェーデンコラム「瑞筆」

Column 高津 雅子さん

01. なぜスウェーデン語なの?

スウェーデン語を勉強しています…というと、スウェーデン語って何?と聞かれます。
確かにラジオ講座もないし、学校でも滅多に教えていませんのでスウェーデン語を耳にすることはありません。スウェーデン語は約900万人の国民と少数のスウェーデン系フィンランド人が話すだけです。そしてスウェーデンでは多くの人が流暢に英語を話すので、基本的に外国人がスウェーデン語をわかる必要はないのです。
けれども、その国固有の文化を理解しようと思ったら、その国の言葉を理解することがやはり必要になります。私の場合は、スウェーデンの手工芸に興味を持ち、さらにスウェーデンの生活・社会を知りたいと思いスウェーデン語の勉強を始めました。

今思えば、高校卒業後に札幌に住んだことが、私が北欧に惹きつけられる下地になっていました。 札幌での大学生活の間にいつのまにかスウェーデンのイノベーター社のテーブルやベッドを買い、小樽のガラスを見るうちに北欧のガラスが自分の好みだと気づき、だんだんと ”雄大な自然の中ではぐくまれる生活と、それにマッチするシンプルで合理的なデザイン” というものに惹きつけられていました。そして、自分でそれをはっきりと自覚したのは東京でOL生活を送っている時。北欧的なものを求めて、時間をつくっては卓上織り機でスウェーデン織りのまねごとをし、そして当時西武デパートでしか扱っていなかったコスタ・ボーダのガラスに出会いました。
それは単純な丸いフォルムのウイスキーグラスで、1.5cmくらいの厚さの底にプクリとひとつの気泡が入っている。後に知ったことですが、それは「Pippi」(長靴下のピッピのこと)という名前のシリーズでした。そのグラスは一つ2万円くらいの値段で、到底OLの私に買えるものではありませんでした。
”スウェーデンで買えば安いのかしら…スウェーデンに行ってみたいな…”とつぶやくようになっていました。それは1980年代初め、世間では第一次北欧ブームが起きていた頃でした。

結婚して夫の転勤で横浜に転居した時に、マンションの郵便受けに「北欧語翻訳」の名札を見つけました。スウェーデン語を教えてもらえないかと訊ねましたが、「自分は教えることはしていないし、北欧語を教えているところは近くには無いと思う」ということでした。 そこで、しかたなく<スウェーデン語入門>という簡単な教本とテープを書店で注文して取りに行き、帰宅して郵便受けから取りだした夕刊に「横浜朝日カルチャーでスウェーデン語講座開講!」という案内記事が目に飛び込んできました。
1990年代初め、第二次北欧ブームの頃でした。

これはもう、あなたは勉強するのですよ…という神の啓示だと思いました。いま始めるものは、一生続けるいわゆる生きがいになるものだ…と思っていた時期でした。
講座は横浜駅からすぐ近く、先生はスウェーデン語文法の第一人者 東海大学文学部北欧学科 山下泰文先生で、「スウェーデン語文法」の著者であるというすばらしい条件でした。
好条件が揃い心配はただひとつ、家に残す3才・5才・7才の子どものことでしたが、隣近所の親しい方に助けられ、食卓に用意した晩御飯を食べて、夕方の○○戦隊○○レンジャーシリーズを見て、3人で寝る支度をしているところに私が帰ってくるという段取りでうまくいきました。幸い何事もなく2年半続きました。(一度だけ、中からチェーンをかけられ3時間閉め出され困った事がありましたが。)

スウェーデン語を習う人なんているのかしらと思っていましたが、好きこそ…の例えの通り、同好の士が集まり勉強は楽しく続き、行ったこともないのにスウェーデンに関する知識はどんどん増え、ますますスウェーデンにのめり込んでいきました。
先生も仕事として教える域を超えて、スウェーデンに興味を持つ仲間として語学だけでなくいろいろな情報を与えてくださいました。先生にスウェーデン・ダーラナ地方の夏期語学講習は語学の修得だけでなく、スウェーデンの中でも自然のたいへん美しい場所で過ごせることを、しかもそこはスウェーデンの手工芸のメッカといわれる地域であることをうかがいました。

いつか行ってみたいと思ってから2年で本当に行ける事になるとは、自分でも思っていませんでした。
たまたま子どもが健康で、留守番をしてくれる母が元気で、子どもがおばあちゃんを大好きだった、そして主人が少しでも早く行けば…と背中を押してくれたことでスウェーデン行きが実現しました。
1995年7月のことでした。

次回は「スウェーデン文化交流協会主催 スウェーデン語講習」についてです。

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高津雅子さん

北海道出身。1957年生まれ。 北海道大学教育学部で発達心理学を専攻。エトワール海渡(株)勤務後結婚。
1993年から横浜朝日カルチャーでスウェーデン語講座を受講する。
1995年 SI(Svenska Institutet):スウェーデン文化交流協会の外国人向け夏期スウェーデン語講座初級受講。
2005年 同 夏期スウェーデン語講座中・上級を受講。
2006年~(財)スウェーデン交流センター スウェーデン語講座講師。 スウェーデンの手工芸をきっかけに横浜、大阪、札幌でスウェーデン語を学習。スウェーデンの絵織り・フレミッシュ織りやマット織りを修行中。

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